パクリタキセルによる末梢神経障害とIL20

2020年5月21日木曜日

パクリタキセルは卵巣がん、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、子宮体がんなどで現在最も広く使われてる抗がん剤である。この抗がん剤には主な副作用として発熱、骨髄抑制、関節や筋肉の痛み、比較的軽い吐き気や嘔吐、脱毛が知られている。また、手足の痺れや痛みを感じるなど末梢神経に障害が現れたり、まれにうっ血性心不全や聴力障害も起こる事も知られている。痛みの観点から、みるとパクリタキセルによって引き起こされた神経障害性疼痛は実に治療抵抗性である。

今回、パクリタキセルによって生じる神経障害にIL20が関与しそれをターゲットとした治療を行うことで神経障害性疼痛を抑止できる可能性が示す論文がPAINに報告された。

化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)におけるプロ炎症性サイトカインを含む免疫メディエーターの役割は不明未だわかっていない。この研究では、パクリタキセル誘発性末梢神経障害の発症に対するインターロイキン-20(IL-20)の寄与について研究した。化学療法を受けた癌患者におけるIL-20の血清レベルの上昇は、CIPNリスクの上昇を伴っていることを明らかにした。また、マウスモデルでは、血清および後根神経節における炎症性IL-20レベルはパクリタキセル治療に伴って変動していた。

動物実験でIL-20を中和抗体またはその受容体の遺伝子欠失でブロックすることにより、CIPNを予防し、末梢神経障害を緩和し、マクロファージ浸潤およびサイトカイン放出を含む炎症反応を抑制した。メカニズム的には、パクリタキセルはCa2+のホメオスタシスを調節することによりIL-20を増加させ、化学療法誘発神経毒性を増強させた。

重要なことは、IL-20の抑制はin vitroおよびin vivoの両方でパクリタキセルのがん治療効果を変化させなかったことである。これらの結果から、IL-20を標的とすることで、神経炎症を抑制し、Ca2+の恒常性を回復させることで、パクリタキセル誘発性末梢神経障害が改善されることが示唆された。したがって、抗IL-20モノクローナル抗体は、パクリタキセル誘発性神経障害の予防および治療のための有望な治療法である事が示された。


(Targeting interleukin-20 alleviates paclitaxel-induced peripheral neuropathy Chen, Li-Hsiena; Yeh, Yu-Minb,c; Chen, Yi-Fand; Hsu, Yu-Hsiangb; Wang, Hsiao-Hsuand; Lin, Peng-Chanc; Chang, Lian-Yuna; Lin, Chou-Ching K.e; Chang, Ming-Shif; Shen, Meng-Rua,g,*Author Information

PAIN: June 2020 - Volume 161 - Issue 6 - p 1237-1254doi: 1097/j.pain.0000000000001831)

       




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